どうも、木村(@kimu3_slime)です。
ニコニコ動画・例のアレカテゴリにおいて、「クッキー☆」はひとつのジャンルとしての地位を確立しています。
ところが、そのジャンルを楽しむための前提知識が多く、なんだかよくわからないと思っている人も多いのではないでしょうか。
今回は、東方や淫夢について全く聞いたことがない人でも、「クッキー☆」とは何かわかるように解説していきたいと思います。
クッキー☆とは?
「クッキー☆」は、2010年2月に公開された動画「【東方合同動画企画】魔理沙とアリスのクッキーKiss」、およびその派生ネタ、派生ジャンルを指しています。
画像引用:【東方合同動画企画】魔理沙とアリスのクッキーKiss
「クッキー☆」というジャンルを知るためには、その原点である「【東方合同動画企画】魔理沙とアリスのクッキーKiss(クッキー☆原作)」を知ることが大切です。
クッキー☆原作は、東方と呼ばれるジャンルのキャラクターを使って作られたボイスドラマです。そこに淫夢というジャンルに染まった視聴者(淫夢民)がコメントしています。
これを理解するためには、「東方」と「淫夢」という2つのジャンルの前提知識が必要になってきます。1つずつ見ていきましょう。
前提知識:東方とは?
東方(プロジェクト)は、上海アリス幻樂団が制作する弾幕シューティングゲーム群、およびその二次創作を指しています。
幻想郷と呼ばれる架空の土地を舞台にし、そこで起こる異変を巫女や魔法使いが解決していく、というストーリーが基本です。
画像引用:東方Project第6弾 ★東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.
東方ブームの最初のきっかけとなる作品「東方紅魔郷(とうほうこうまきょう)」は、2002年に発表されました。
クッキー☆原作も、東方紅魔郷のキャラをベースにして作られています。ゲームの主人公である紅白の巫女・霊夢(れいむ)と金髪の魔法使い・魔理沙(まりさ)は覚えておきたいところ。
クッキー☆原作のヒロイン枠である人形遣い・アリスは、(Windows版以前の過去作品を除けば)東方妖々夢からの登場です。
東方プロジェクトは、もとはシューティングゲームというややニッチなジャンルでしたが、少女が重火器を使わずにきれいな弾幕で戦うという設定や、メロディアスなBGMがきっかけで人気になりました。
参考:東方Projectの二次創作ガイドラインまとめ・プレイ動画の許可は必要?
また、東方プロジェクトはその二次創作がきっかけでその人気が広がっていきました。キャラクターを使ったイラストや小説やアニメ、音楽のアレンジを通じて、東方の名前はネット上で広がっていきます。原作がシューティングゲームであることを知らなくても、東方のキャラクターは知っている、という人も多いのではないでしょうか。
ニコニコ動画では、「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」や「Bad Apple!!」が二次創作として有名ですね。
参考:ニコ動電波ソングの原点「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」の元ネタ・流行った理由
東方プロジェクトは、2009年(C76)に、コミックマーケットの「同人ソフト」ジャンルから独立したジャンルになっています。それだけ同人ソフトの中では異様な人気を持っているわけです。
クッキー☆原作も、そんな東方の二次創作のひとつです。
東方プロジェクトのキャラクターを使いつつも、ゲーム原作の素材は全く使わず、ボイス・イラスト・脚本を自作したボイスドラマです。(したがって、見慣れていない人には素人感があるかもしれません。)
しかし、東方二次創作でありながら、東方とは似て非なるジャンル「クッキー☆」を生み出すきっかけとなる作品でもあります。
前提知識:淫夢とは?
クッキー☆原作は、言ってしまえば普通の東方二次創作です。
なぜ「クッキー☆」というジャンルが生まれることになったか。それには、淫夢と呼ばれるジャンルが関係しています。
淫夢は、ビデオ「真夏の夜の淫夢」(およびその関連作品)の略称。
ある野球選手が出演していたことがきっかけで、2005年頃からにちゃんねるで話題に。
関連するビデオで野獣先輩と呼ばれるキャラクターが発掘され、2009年あたりからニコニコ動画でも1ジャンルとして成立しています。
参考:すべては1本のビデオから始まった ー 真夏の夜の淫夢入門その1、4章・野獣先輩はいつどこで発掘されたか? – 真夏の夜の淫夢入門その2
淫夢が好きな人は淫夢民と呼ばれます。淫夢民は、原作となるビデオのセリフ(淫夢語録)を駆使して話すのが特徴です。「やりますねぇ!」「はーい、よーいスタート(棒読み)」などなど。
参考:ネット語録とは何か?特徴は? 淫夢語録、尊師語録などを例に考える
淫夢というジャンルは2009年頃から拡大してきて、2018年現在でも続いています。その持続力の理由は、外部のコンテンツを淫夢語録によって取り込み淫夢ネタにしてしまうことにあります。
参考:なぜ「淫夢」は発見から8年経ってもニコ動でオワコンにならないのか?
ジャンルとしてのクッキー☆は、クッキー☆原作に目をつけた淫夢民が生み出した、東方とも淫夢とも異なるジャンルと言えるでしょう。
クッキー☆の歴史
東方と淫夢の話はこの辺にして、クッキー☆というジャンルが実際どうやって成立・発展してきたか、その歴史を紹介しましょう。
2010年〜 淫夢民がクッキー☆に目をつける
クッキー☆原作(【東方合同動画企画】魔理沙とアリスのクッキーKiss)は、43人が関わって作られた30分の大作東方ボイスドラマです。2010年2月15日に投稿されました。
アリス・霊夢からもらったバレンタインデーのお返しを忘れていた魔理沙。そんな彼女がお返しとしてクッキー☆を作る、というストーリーですね。東方二次創作にありがちな百合物語です。
ここまで聞けば普通の話ですが、主に問題になったのは声優の声です。
画像引用:【東方合同動画企画】魔理沙とアリスのクッキーKiss
投稿日時点で「棒www」「声聞いてからミュート余裕でした」といった悲しいコメントがついています。
投稿から数日後には、(東方を知っている)淫夢民が棒読みに目をつけ始めます。
淫夢民は淫夢2章で棒読み演技を楽しむことに慣れていて、クッキー☆も同じくコンテンツにできると考えたのでしょう。
参考:「窓際行ってシコれ(窓シコ)」の元ネタは? 淫夢2章NSOKの発言
最初は淫夢民でない東方ファンのコメントも多かったのですが、2010年10月頃にはコメントのほとんどが淫夢民になっていますね。
「今日もいいペンキ☆」や「サラダバー」、「やっぱりアリスが作るブラウニーはうまいな」などのセリフはクッキー☆語録として親しまれるようになりました。
参考:クッキー☆ 有名なセリフ・語録・MAD素材のキャラ毎まとめ
同時期には、クッキー☆の二次創作となるクッキー☆音MADが生まれ、流行っています。
画像引用:クッキー☆ 音MAD – ニコニコ動画
2010年〜 UDK姉貴の発掘
淫夢民が他ジャンルにも進出する。それだけならばよくあることで、一過性のネタとして終わったことでしょう。
継続して淫夢民の間で話題になったのは、UDK姉貴(うづきあねき)が発掘されたからでしょう。
UDK姉貴とは、クッキー☆原作で魔理沙役をつとめた声優・宇月幸成(うづきこうせい)さんのこと。淫夢民なりに、声優本人への直接の言及を避ける呼び方です。UDuKiを省略してUDKですね。
UDK姉貴はもともとニコニコ生放送をやっていましたが、クッキー☆をきっかけに淫夢民のコメントが増えていきました。
演技を馬鹿にする淫夢民をUDK姉貴はよく思っていなかったのですが、その拒否反応ひとつひとつが逆に新しいネタとして捉えられていきました。
あのさぁ……イワナ、書かなかった? コメント…あの、掲示板とこ あの…ヴォー!東方動画やそのMAD関係のやつは、コメント出すなって!
引用:UDK姉貴
2010年11月10日の生放送におけるイワナ発言によって、クッキー☆民の中でも特にUDK姉貴のことが好きな人たちはイワナ民と呼ばれるようになりました。
淫夢スレから独立して宇月スレやクッキー☆総合スレ(本スレ)が生まれるのも、ちょうどこの時期ですね。
だいたいこの時期から、クッキー☆は淫夢から独立したジャンルとなったと言って良いのではないでしょうか。
クッキー☆をひとつのジャンルとして確立させた功績は、UDK姉貴にあると思います。
彼女はクッキー☆本編とは関係ないオリジナルの素材・ネタを多く提供しました(本人はそうする意図はなかったにもかかわらず)。
泣きながら語った「人を傷つけないでください! 迫真の演技とかじゃなくて本気で言ってるんです!(通称:とろろそば)」や、RU姉貴の「嫌いじゃないけど好きじゃないよ」、淫夢民(nisi兄貴)の「泣くとMADになりますので」などなど。
参考:RUDK「嫌いじゃないけど好きじゃないよ」の元ネタは?
宇月さん・声優個人にとって、変な言葉を使ってコメントしてくる人たち(淫夢民)にネタにされるのはつらいことだと思います。
しかし、マイナス要素ばかりではありません。
この時期、何人かの声優が企画者の蓮奈理緒さん(HZN)がセクハラを行っていることを告発しようとしていました(HZN騒動)。その告発には、淫夢民もにちゃんねるで加勢しました。
その結果、UDK姉貴は淫夢民と協力する態度も見せています。(ネタにされることは結局受け入れられず、UDK姉貴は消えてしまったようですが。)
522 : 転載[sage] 投稿日:2010/11/20(土) 18:09:55 ID:srO9bT3P0 [19/24回(PC)]
50 : 稜平 :2010/11/20(土) 18:09:20 ID: oUeYTw70vQ
稜平こと宇月です。
掲示板にあるように、これから皆さんを大切なファンとして認め、放送などを再開したいと思います。
淫夢の皆様方、今まで軽蔑して申し訳ありませんでした。
私も淫夢の方を勉強していきます、放送で発言することは少ないと思いますが・・・これからの進路はゲームを学んで行きますが、声優の道は捨てられないので趣味の範囲でやらせていただきます。
これから頑張っていきたいので応援よろしくお願いします。P.S
HZNのセクハラ被害に合っているのは私だけではないので、皆さんに加勢させていただきます。思い出したくありませんが、何か聞きたいことがあれば聞いてください。60 : 稜平 :2010/11/20(土) 18:17:35 ID: oUeYTw70vQ
追伸 MADの方も認めます、自由に遊んでください(ちょっとは限度を覚えてね)
引用:【桜雪】 クッキー☆総合スレ その13 【蓮奈理緒】(元の文章は、nisi兄貴のコミュニティ掲示板のようです。削除されてしまい確認できませんが。)
UDK姉貴の生放送、HZN騒動(炎上)付近は、登場人物が多くて理解しにくいです。「時をかけるUDK」という漫画はめちゃくちゃわかりやすいのでオススメ。
台風の夜は、クッキー☆騒動からUDKの引退までを現代の視点から脚色して描いた漫画「時をかけるUDK」をおうちで、見よう!(直球)https://t.co/QhWM84vnTw pic.twitter.com/wX0mGJTwYJ
— ときうづ(桃鳩図) (@kaedamasasuzu) October 21, 2017
クッキー☆というジャンルは、動画本編だけでなく、声優個人とのコミュニケーションによって生まれるコンテンツを楽しむという部分に独自性があります。
そうすると、声優本人が望まない形でネタにされてしまうことがどうしてもあるんですね。過激なクッキー☆民は、個人情報を特定したり殺害予告をしたりすることがありました。
参考:「キャラクターの声がイメージと違う・SZK」の元ネタ・初出は?、RRM姉貴(るりま)の人気動画・語録まとめ
しかし、そのような誹謗中傷をする動きは、最近ではかなり減ってきたのではないかと思います。声優がかわいそうですし、それで活動をやめてしまったら新しい素材は手に入らなくなりますからね。
純粋に作品・声優のファンでありながら、本家にはないネタを二次創作で生み出して楽しむクッキー☆民も多いはずです。
2011年〜 ほのぼの神社アレンジシリーズの誕生
クッキー☆の功績のひとつが、ほのぼの神社アレンジシリーズを生み出したことです。
ほのぼの神社は、クッキー☆のBGMとして使われていた東方アレンジ(原曲は二色蓮花蝶 ~ Ancients)。2011年2月に、バンホーテンのサムネイルとともにアップロードされました。
「ココアはバンホーテンのものを使用したのかな?」というクッキー☆ネタをおさえていたこと、クッキー☆音MADが人気になりつつ時期であったことが合わさって、ほのぼの神社のアレンジが大量に作られました。
現在では5000を超えるアレンジが作られています。
ほのぼの神社は、クッキー☆を代表するテーマソングです。それだけでなく、淫夢動画にも逆輸入され、淫夢・クッキー☆に共通する万能BGMとなりました。
ほのぼの神社アレンジ以外で淫夢に影響を与えた文化には、クッキー☆音MAD発「初投稿です・淫夢要素はありません」がありますね。
2011年〜 新しいクッキー☆(クッキー☆☆)の誕生
東方ボイスドラマというジャンルは、クッキー☆に関係なく続いているものでした。
2011年、TIS姉貴(大佐)が企画した「【東方MMD】クリスマス企画! 2011【ボイスドラマ】」がクッキー☆の再来と呼ばれ、新しいクッキー☆として見られるようになりました。
企画者が別人でも、棒読みが面白い東方ボイスドラマならばクッキー☆だ、と一般化されていますね。
TIS姉貴の人気作は、それぞれクッキー☆☆1期(クリスマス企画2011)、クッキー☆☆2期(お正月企画)、クッキー☆☆3期(クリスマス企画2013)と呼ばれています。
特にクッキー☆☆2期の霊夢役・KNN姉貴は、カッチャマ・おばさんボイスが人気になり、クッキー☆のUDK姉貴ポジションとなりました。
参考:東方ボイスドラマ・クリスマス企画!2011(クッキー☆☆1期)の語録・名シーンまとめ、東方お正月!ボイスドラマ企画(クッキー☆☆2期)の語録・名シーンまとめ、東方クリスマス!ボイスドラマ企画2013(クッキー☆☆3期)の語録・名シーンまとめ
2016年〜 キャラクター単体のブームへ
クッキー☆☆以降も、クッキー☆として見られるボイスドラマはたくさん生まれました。
クッソー☆、イースター☆、鍋☆、カス☆(ピーナッツ☆)、クラピ☆、スペカ☆などなど。
クッキー☆☆あたりまでは追っている人が多いですが、このあたりになると作品が多くてついていけない人も多いのではないでしょうか。
クッソー☆のRRM姉貴は、UDK姉貴、KNN姉貴に次ぐ、第3のメインキャラクターと言えるでしょう。
しかし、それ以降、クッキー☆の中心とメインと呼べるキャラクターは減ってきた気がします。作品が多く、視聴者も増えればひとつにまとまらないのは当然です。
特に2016年頃からは、ひとつのボイスドラマが流行るというよりも、その作品の特定のキャラクターが流行る現象が起きやすくなっている気がします。
その先駆けとなる例は、クッキー☆☆3期に登場したHSI姉貴です。彼女は、原作ではほとんど注目されませんでしたが、動画投稿者により多くのBB素材が作られてブームが起こりました。
2017年に流行ったクッソー☆のNYN姉貴も似たような流行り方をしていますね。
参考:NYN姉貴「あたまわるわる音頭」の初出・元ネタは?、「NYN姉貴、ICG姉貴、牛乳、小麦粉」の元ネタ・初出を解説
クッキー☆民がボイスドラマを自作するというケースもあります。
与えられたボイスドラマ動画で楽しんでいたクッキー☆民は、音MADやBB劇場の製作を通じて、クッキー☆を自作するようになってきた、と見ることができるでしょう。
まとめ
まとめると、次のようになるでしょうか。
- クッキー☆の原作は、2010年に公開された東方ボイスドラマ
- 棒読みの演技が淫夢民に注目される
- UDK姉貴の生放送が(よくも悪くも)コンテンツになり、淫夢とは違った新しいジャンルであるクッキー☆が生まれる
- クッキー☆のBGM「ほのぼの神社」は、大量にアレンジが生み出され淫夢側でも使われるように
- 2011年あたりから、クッキー☆が再来し(クッキー☆☆)、KNN姉貴が人気に
- 2016年あたりから、HSI姉貴ブームなど、クッキー☆民主導のブームが起こる
初めて知った人が一度に理解するのは、大変なことだと思います。少しずつ動画を見て、また疑問に思ったときにこの記事を読んでみてはいかがでしょうか。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。