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数学を志す人のための本「志学数学」に教えてもらった、本をじっくり考えながら読む楽しさ - 文脈をつなぐ

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どうも、木村(@kimu3_slime)です。

大学生のときに数学研究について読んだ本の中で、最も良かった本「志学 数学」を紹介したいと思います。

この本で紹介されていた「本をじっくり考えながら読むこと」は、数学以外の本を読むときにも使える優れた考え方です!

 

志学数学 -研究の諸段階 発表の工夫 (シュプリンガー数学クラブ)
伊原 康隆
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志学数学とは

志学 数学は、数学の研究者を目指す人に向けて、研究のステップを深めていく方法を紹介している本です。著者は、整数論を研究する伊原康隆さんです。

本全体の書評は、「セミナーの準備のしかたについて」を書いた河東さんの書評がオススメですね。

いきなり結論を簡単に言えば,これは大変よい本である.いちいちそのとお りだと思うことがたくさん書いてあり,私が漠然としか考えていなかったことが 明示的にまとめられているところも少なからずあり,一気に読み通した.

引用、参考:書評「志学 数学」 伊原康隆 – 東京大学・河東泰之

ということで、この記事では、考えながら読むことについてまとめようと思います。

 

本を伏せての勉強が大切

僕がこの本で最も印象深く残っているのは、本を伏せての勉強が大切という話です。少し長くなってしまいますが、とても気に入っている部分なので、引用します。

区切りのよいところまで来たら、次に進もうとする前にちょっと本を伏せて下さい。そして白い紙と鉛筆をとって、さて何が書かれていたか、主な事がどのくらい頭に入っているか、自ら書いてみて下さい。主な定義、定理(ある条件のもとで…が成り立つ、くらいでもよいから)が書けなかったら、もう一度ページを戻して下さい。これは、何も、描かれていた事を暗記しながら進め、と言っているのではありません。数学は、理解の深さによって努力的暗記をしないですませられる学問です。暗記ではなく理解が問われるわけです(これについても後述)。

一応書けたら、まずは、よしよし。この辺で眼も疲れてくるでしょうから、ちょっと散歩でもしてはどうでしょうか。人や車の少ない路地があればそこを選んで、歩きながら今まで勉強した部分の面白いところ、エッセンスを友人に説明するつもりで、思い出し順序立てて見て下さい。こういう事があなたの数学脳を鍛えてくれます。或いは床で横になって、夜寝床で、でもよいと思います。(ただし不眠の癖がつく怖れが多分にあるので、「夜寝床で」は良し悪し。)いずれの方法にせよ、これらによって、数学は

「印刷された本に書かれたもの」

から

「自分の頭の中に生命をもって生長してゆくもの」

に少しずつなってゆくはずです。

 

本を見ずに内容を思い出すことで、理解度を試す

先ほどの引用の中で、まず大事だと思ったことは、本に書かれていたことを本を見ずに書いて、ちゃんと理解しているかどうかを試すこと

やってみるとわかるのですが、さっき読んだばかりのことが案外書けないんですよ。あるいは、書けても細部が曖昧であったり。そして、書けないということは、ちゃんと理解していないということの表れです。

つまり、「見ないで書く」という具体的な方法によって、自分の理解度をテストすることができるわけですね。

歩いていて紙やペンがない時は、頭の中で声を出して読み上げようとしてみます。これも書くのと同様、効果的です。

自分がどこをスムーズに理解できていて、どこがそうでないのか。ちゃんと思い出せない部分は、どうして思い出しにくいのか。何がわかっていないのか。これを考えることで、本に書かれていること以上のことを理解できるようになっていきますね

 

人に説明するつもりで、自分なりにまとめなおす

もう一つ大事だと思ったことは、「エッセンスを人に説明するつもりで、思い出して順序立てること」です。

この段階では、教科書に書かれていた一部分を考えるわけではありません。教科書に書かれているすべてのことは、何一つとして独立していなくて、前提や事実が有機的につながっています

友人に説明するときには、「伝えたいことの核心は何か」を決めた上で、その核心を伝えるまえにどんなことを知っておく必要があって、どうやって興味を持ってもらうかを考えることになります。

一から他人に説明するステップは、めちゃくちゃ勉強になりますね。それは、自分用に新しく教科書を書き直すようなものです。何が本質的なのか、何と何がリンクしているか、何が面白いか、そういったことをを自分で見つけ出すことは、一つの探求です

数学を「紙に書かれた文章」から、「自分の中に息づいて成長するもの」にしていく。

このステップは創造的で、本を深く読んでいて面白い瞬間でもありますね!

 

自分の言葉にするためにまとめを作ることの大切さは、次の記事でも書きました。

参考:ゼミの準備って何をすればいいの? 文脈ゼミの手引きその3

 

本を読むのが楽しくなると、数学が楽しくなる

僕はこの本のおかげで、本をじっくり考えながら読むことの楽しさを知って、それで数学の研究をしたくなって大学院へ進みました

たぶん、いきなり数学の研究に興味を持つのは難しいと思います。

まずは、本をじっくり読む方法を身につけて、その中で本を読む楽しさを知ったら、数学を研究してみたくなるのではないでしょうか。

志学数学では、「学習と研究の諸段階」として数学を楽しむステップを紹介しています。具体的な数学の知識がなくても読める本なので、数学に興味があるなら是非読んでみてください!

数学のまなび方」は研究に限らず数学の学び方を、「数学の道しるべ」は志学数学より専門的で具体的な研究の方法を紹介しています。こちらもどうぞ。

 

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木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。


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