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あり合わせの知で世界すべてを理解しようとする レヴィ=ストロース「野生の思考」を読む - 文脈をつなぐ

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どうも、木村(@kimu3_slime)です。

レヴィ=ストロース「野生の思考」を読みました。

 

この本を読もうと思ったきっかけは、文化人類学を学び、発酵デザイナーとして活動している小倉ヒラクさんを知ったことにあります。

参考:レヴィ=ストロースの偉大さとインセスト・タブーの謎について – hirakuogura.com

レヴィ=ストロースは構造主義という考え方を駆使した人です。僕はまず、「寝ながら学べる構造主義」を読みました。

そして、いよいよレヴィ=ストロースの「野生の思考」を買ったのは良いですが、文量が多く積み本になっていました。

最近になってヒラクさんが「発酵文化人類学」という本を出したので、それを読み始めたら、結局レヴィ=ストロース御大の影響を大きく受けているということが書かれている。

ならば、原著の一つくらい読んでおきたいという気持ちになり、読みました。道のりが長い。

 

中古で買った本ですが、目次に人名が書き込まれていて、ゼミで読み込まれていたのだというのが感じられる、味のある本です。

本が扱っているテーマは幅広く、小さめの文字の割に350ページ以上あるので、今回はさわり程度にしか読んでいません何回も繰り返し読んで理解していく本だと思いました。

ということで、今回はそのメインテーマである「野生の思考」だけについて触れたいと思います。

 

知っているから、役に立つとわかる

レヴィ=ストロースは、1908年生まれのフランス人です。フランス革命後の人ですね。

参考:フランス革命後の秩序を求めて「オーギュスト・コント 社会学とは何か」を読む

当時のフランス、ヨーロッパにおける、未開人観に疑問を投げかけ、ひっくり返したのが野生の思考です。

タイトルに含まれるsauvageというフランスの単語が、野蛮な(人)、野生の(植物)という二つの意味を持っているんですね。

未開と呼ばれる人の考え方(野生の思考)は、無秩序で理性に欠けるものではなく、あらゆる文明に存在すること

それをレヴィ=ストロースは、さまざまなフィールドワークと考察から描き出します。例が多すぎるのが、いかにも文化人類学の本、という感じがします(笑)

面白かった例をひとつ紹介しましょう。

当時、未開の人々は、自分の欲求のために、役に立つことだけに名前を与え言葉を使っているとみなされていました。

しかし、現地の人々は、動物学者・植物学者並みの知識・分類を、役に立たない対象を含めて持っていたのです。

「ネグリトは、自分の暮らしている環境に完全にとけ込んでいる。そして、さらに重要なことは、ネグリトが自分をとりまくあらゆるものを絶えまなく研究していることである。私はつぎのような例を何度も目にした。何という植物かはっきりわからないと、その実の味を調べ、葉の匂いを嗅ぎ、茎を折って観察し、生えている場所を検討する。ネグリトはこれらのデータをすべて考慮したのちはじめて、問題の植物を知っているとか、知らないと植物だとか述べるのである。」

「住民は農耕民である。彼らにとって植物は人間と同じように重要で、また同じように親しいものである。ところが私の方は、農家の生活をした経験はないし、ベゴニアとダリアやペチュアニアを見分けることでさえあまり自信がない。植物は、数学の方程式と同じく、よく人をだます。同じように見えるものが違い、違うように見えるものが同じである。だから私は、植物学となると数学と同様で、さっぱりわけがわからない。私は生れてはじめて、十歳の子供が算数にかけて私以上ではない社会にはいりこんだのだが、それは同時に、野生植物であろうと栽培植物であろうと、植物にはすべてはっきりきまった名称と用途があって、男も女も子供も、誰でも何百種という植物を知っている世界なのである。彼らほどに植物を知ることは、その気になったところで私には不可能だろ、そう言っても、彼らは誰も信じてくれないだろう。」

引用:野生の思考p5,p8

このような例を引きながら、「動植物に関する知識がその有用性にきまるのではなくて、知識がさきにあればこそ、有用ないし有益という判定が出てくるのである」と結論づけます。

この文に僕は痺れました。

役に立つものだけを知るのは不可能。いろいろなものの知識を持っているからこそ、役に立つとか役に立たないとか判定できるわけですよね。

有用性が知識を生み出すのではなく、知識が有用性を生み出すというロジックも、構造主義らしさがあって好きです。

 

野生の思考とは、ブリコラージュだ

このように、未開思考(呪術的思考・神話的思考)と呼ばれるものの中には、知識を秩序づけるような要求があります。

多少の誤り・仮説に過ぎない部分はあっても、すべてを体系の元に能動的に理解しようとしている

この点において、神話的な思考と科学的な思考似ているのです。

 

似ているとはいえ、別物である。それをレヴィ=ストロースは、ブリコラージュとエンジニアリングに対比して説明します。これがまた面白い。

ブリコラージュは、フランス語で器用仕事、あり合わせの道具材料を使って自分の手でものを作ることを意味する言葉。

小倉ヒラクさんは、ブリコラージュを説明するときに、DIY・日曜大工のようなものだと言っていますね。(参考:Greenz People’s Books『ほしい未来をつくる言葉』に寄稿しました – hirakuogura.com

レヴィ=ストロースによると、神話的な思考は、ブリコラージュのようなものである

何かの役に立つかもしれないというだけで持っているあり合わせの道具と材料の中で工夫する。説明の材料が足りないときにそれを外から持ってくるということはない

一方でエンジニアは、説明のつかないことがあったときに、必要な情報を求め全世界を探そうとする。また、あらかじめ計画(概念・構造)を作った上で、現実を理解していく

神話的な思考と科学的な思考には、このような違いはあれど、前者が発達して必ず後者になるわけではない。

 

 

いわゆる文明国に住む人も、野生の思考、ブリコラージュ的な思考はしていますし、役に立ちますよね。

というか、特に自分が専門的に学んでいないことは、ブリコラージュ的な思考をせざるを得ない気がします。

日常の中ですぐさまに答えの出ない問いがあったときに、とりあえず答えを出すには、現時点で知っている範囲の知識を使うしかない。インスタントな回答を出すことは必要だし、重要だと思いました。

ただ、その即席な回答に自分が満足できません。野生の思考を大切にしつつ、その先へ進もうと、改めて思いました。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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