どうも、木村(@kimu3_slime)です。
心理学を学んでいると、認知という言葉に合わせて、「スキーマ」という言葉が登場します。
坂野「認知行動療法」によると、「スキーマとは、個人の中にあるかなり一貫した知覚・認知の構えである」ということですが、わかったような、わからないような。
参考:思考のパターンを変えれば、不安は和らげられる「認知行動療法」
そこで今回は、スキーマに関する説明をまとめ、その源流であるピアジェの意味でのスキーマまでたどり着きたいと思います。
スキーマとは?
スキーム(scheme)、スキーマ(schema)は、一般的には「図式」と翻訳されます。
In psychology and cognitive science, a schema (plural schemata or schemas) describes an organized pattern of thought or behavior that organizes categories of information and the relationships among them.[1]
心理学、認知科学において、スキーマは、組織化された考えのパターンや、情報のカテゴリやその間の関係をまとめる行動を指している。
引用:Schema_(psychology) – Wikipedia(en)
この図式という和訳は、とてもわかりにくいです。図式なんて言葉、日本語であまり使いませんよね。計画(plan、project)、枠組み(outline、framework)、ダイヤグラムという言葉がセットで思い浮かぶと理解しやすいです。スキーマは、まだ実現されていない設計図ですが、それに従って実際の行動をしていく枠組みでもあります。
参考:Difference between “scheme” and “schema” [closed]
より具体的にスキーマというものを知るためには、次の文章が非常にわかりやすかったので、引用します。
スキーマの働きを実感してみよう。これは、スキーマ研究で定番となったブランスフォードらの実験に用いられた文章である。まず、これを読んで「何の話か」想像してもらいたい。
新聞の方が雑誌よりいい。街中より海岸の方が場所としていい。最初は歩くより走る方がいい。何度もトライしなくてはならないだろう。ちょっとしたコツがいるが、つかむのは易しい。小さな子どもでも楽しめる。一度成功すると面倒は少ない。鳥が近づきすぎることはめったにない。ただ、雨はすぐしみ込む。多すぎる人がこれをいっせいにやると面倒がおきうる。ひとつについてかなりのスペースがいる。面倒がなければ、のどかなものである。石はアンカーがわりに使える。ゆるんでものがとれたりすると、それで終わりである。(西林、2006、p.45)
何の話かわかっただろうか。これは「蛸をから揚げにする話」である。いや、ちがった、「凧を作って空に揚げる」話である。そういわれてみれば腑に落ちる。何の話かわかれば話が分かる。つまり、「凧揚げのスキーマ」が活性化されたので、話が分かるのである。
「これは凧についての話である」と知って、初めて人はこの文章の意味を理解することができます。つまり、「凧は軽く作らなければならないし、広い場所が必要で、子供でも遊べる」という凧についての体系的な知識(スキーマ)をあらかじめ持っているからこそ、この文章は読解できるわけですね。もし、日本語が文章として読める人でも、凧というものを知らなければこの文章の意味は理解できないでしょう。
認知の発達とスキーマ、シェム、シェマ
僕がスキーマというものをきちんと知るために読んだ本が、「ピアジェに学ぶ認知発達の科学」です。「Piaget’s Theory」というピアジェの論文を日本語訳し、解説をつけた本。論文1ページに対して解説1ページの文量があり、解説がめちゃくちゃ充実しています。
ピアジェは、1896年にスイスのフランス語圏に生まれ、生物学に興味を持って研究しました。その後、生物学と認識論を結びつける領域として心理学に注目し、子供の認知の発達などを研究して心理学者として功績を残しています。
さて、スキーマの話をしましょう。実は、フランス語の原論文では、シェム(Schème)、シェマ(Schéma)と二つの言葉を使い分けています。英訳、日本語訳ではどちらもスキーマ(Schema)と一緒くたにされていますが、シェムとシェマという本来違う概念が二つあるのです。
まず、シェムについてです。シェムは、「行為のシェム」という形で使われる言葉で、「物理的に異なる行為だが、心理的には同じ行為だと思える構造」を指しています。例えば、「ものをつかむ」という行為のシェムを考えてみましょう。私たちは、ものをつかむ時に、いろいろなつかみ方をします。コップを持ったり、鉛筆を持ったり、机を持ったり。大きさや重さ、形によって様々な持ち方をします。でも、頭の中では「ものをつかむ」という行為として共通しています。これが(行為の)シェムですね。シェムは、様々な行為に共通していて、一般化されうるものを指しています。
続いて、シェマについて。シェマは、街の地図のように、「単純化された記憶の中のイメージ」を指しています。「郵便局といえば、こんなイメージ」と心で思い浮かべる具体的なものがシェマですね。そこで思い浮かべるイメージは、概略を示したもの(schematic)ではありますが、先ほどの意味でのシェムとは違います。だから、シェマと呼ぶことで使い分けましょうということです。シェマは、知能と心像(mental images)、記憶の研究で登場する言葉です。
スキーマという言葉にとらわれず、そこで意味したいことを文脈から読み解く
このように、シェムとシェマの区別はややこしいです。ピアジェの言う操作、構造、同化と言った概念を知らなければ、シェムについて本当の意味で知ることはできません。英訳されたピアジェの本や、日本語で書かれた心理学の本では、シェムとシェマの概念が合わさった意味の言葉としてスキーマが使われていると考えた方が良いでしょう。
先ほど紹介した「スキーマ理論 – 熊本大学」の言うスキーマは、シェムを指していると思います。凧揚げという行為のシェマで、凧あげという行為に共通している構造を指していますね。
「わかったつもり~読解力がつかない本当の原因~」という本でも、スキーマは登場します。そこでは、「あることがらに関する、私たちの中に既に存在しているひとまとまりの知識」とされていますね。「スキーマを使って、文章を読む」という言葉の使い方をしています。
この二つの文章では、スキーマは「読解のために使われる知識の集まりで、活性化することによって物事を理解する」ことを意味しています。引用している凧あげの例文としてはピアジェの言うシェムの考え方ですが、スキーマ=ひとまとまりの知識という考え方はシェマに近いですね。このように、スキーマという言葉の意味はシェムとシェマが入り混ざっているので、文脈に応じて著者の言いたいことを読み解く必要があると思います。
認識や文脈の話は、やはり面白いので、これからもどんどん学んでブログで紹介していきます!
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木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。